2018/03/20 15:25




半期に一度のお祭りが始まった。ファッションショーのあれこれを綴っていくコラム【ランウェイのケセラセラ】2018秋冬コレクションもいよいよスタート。まずは「tiit tokyo」から。


ROBE的東コレ幕開けショーとなった「tiit tokyo」の会場はAmazon Fashion Week TOKYOの公式会場である渋谷ヒカリエ。入ってすぐ目に留まったのは天井から吊るされる薄いオーガンジーの布。そこにはレーザー光線でtiitのロゴが繰り返し描かれていく。






「ムーンリバーのようだなぁ」とぼんやり眺めていると、来場客が会話する声が対岸からかすかに聞こえる街の喧騒に思えてきた。


ファッションショーが始まる前は大抵会場が薄暗く、幻想的な空間もあれば無機質で手触りのない空間もある。今回は前者だな、と思っているうちにレーザー光線はロゴではなく水面の揺らめきのようなものを映し出した。ショーが始まる。


「SOMEWHERE」と題された今回のショーは、「インターネットやAIなどテクノロジーに囲まれた社会に生きる女性 そんな一定の価値観で満たされた彼女が 心の奥底で夢見る穏やかな理想郷」を追い求める“旅路”を描く。



ヴィヴィッドな水色と黄色のツイードのセットアップは、旅路の幕開けにふさわしい一着。デジタルに疲れてしまった(というより当たり前になって刺激を感じなくなってしまったと言うべきか)彼女が理想郷として選んだのは「自然」という実世界の美しさ。


一見ケミカルに見えるヴィヴィッドな色も、自然を見渡せば意外と落ちている色なのだ。例えばその水色は、もしかしたらルリトウワタの花弁からとったのかもしれないし、黄色は繭の柔らかな肌からきたのかもしれない。私たちはそんなことも忘れてしまって、すっかり画面が作り出す二次色で満足してしまっている。本当にそれでいいんだっけ?




柔らかな土のようなベージュのニット、ムーンリバーが映えそうな湖面のように輝くトップス、モコモコのクッションのようなエメラルド色のニット。旅は夜から始まったのかもしれない。ネグリジェのようなとろんとしたシャツを着た彼女は、慌てて羽織ったかのように不釣り合いなマウンテンパーカーを着ている。



足元には肌をぴったりと覆うラテックスのソックス。旅路を行くには少し歩きにくくはないか、と野暮なことを考えたけど、まとわりつくそれは現代の足枷とも言うべきか。理想郷を探すにはそれ相応の覚悟がいる。




ベージュ、オフホワイト、ヴィヴィッドなグリーンやブルー。グレーとブラウン。次々と流れていく洋服たちは、会場に流れる水流のような音とともに地層の深さを思い起こす。足元のその奥を見てみると、そこには積み重ねた何かが必ずあって、掘り起こしてみたら原石があるかもしれない。



実世界はこんなにも美しいもので溢れている。磨けば輝くものたちを、私たちは見逃していないか。ラストルックはtiit tokyoらしい透け感のあるオーガンジーのドレスで。旅路の地図は、無くさないように着るんだって。



text. Azu Satoh


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